デジタルヘルス解説集 東京慈恵会医科大学 先端技術情報研究部

Join(アルム)

株式会社アルム 代表取締役社長 坂野 哲平 氏

日本初の保険適用医療機器プログラム「Join」はこうして始まった

「Join」は、基本的に慈恵の高尾先生の発想がきっかけです。村山先生(東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座の村山 雄一主任教授)の研究室の先生方が、もともとは自分たちがオンコールのときに自宅でもMRI画像を見ることができないか、その方が素早く診断できるはずということで始まったとは聞いています。慈恵の中で、民間側の企業も含めていろいろ喧々諤々やられていたところに、弊社は後から参加させていただきました。それまでは大きなシステムをオンプレミス※1で病院に入れるというのが基本線でしたが、慈恵ではクラウドとスマホベースで構築し、しかも商用化しようと。

実際の開発が始まったのは2014年の頭ぐらいでした。当初から旧薬事法※2の改正が見えていたので、その前にまずは作って広めようということで、2014年8月からほぼ無料の状態で配布を始めました。慈恵の先生方のコネクションで、主に全国の大学病院に対し「Joinという新しいコンセプトのソフトを作りました」とプレゼンして回りました。

Photo1

11月に薬機法が成立して、高尾先生が「これは保険適用されるチャンスじゃないか?」と言ってくださり、じゃあそれを目指そうとなったのですが‥弊社は当時、医療機器製造販売業の免許すら持ってなくて、当然保険申請までのプロセスなんて何も分かっていませんでした(笑)。

実を言うと高尾先生も熟知されているかというとそうではなかったのですが、医系技官として厚労省に出向され、医療機器の供給を管轄する医政局経済課に配属されていらっしゃった。配属されて、実際に審査プロセスを見て、これはいけるのでは?と感じられたのでしょうね。

※1 オンプレミス
自社内で各種サーバーや通信回線、付随するサービスなどを揃え運用すること。今回の場合病棟内で揃えることを意味する

※2 旧薬事法
現・薬機法。正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。2014年11月に再生医療用医薬品、プログラム医療機器などの承認プロセス、安全性基準の策定などを目的に、薬事法の名称変更も含めて改正、成立した

保険適用に必要な要件を満たすには、理解ある臨床パートナーが必須

保険適用される要件は2つあります。まずは臨床上どれだけの効果があるのか、というのを証明すること。2つ目は保険適用されたとして、医療経済上どういうインパクトがあるのかを示すこと。臨床上と医療経済上の効果の2つ、両方証明しなければいけないのです。両方を証明するのはメーカーだけでは不可能なので、基本的には臨床パートナーが必須です。保険適用後も、その製品をどう運用するのかという課題がありますので、メーカーと臨床パートナーが二人三脚で一緒に走っていくことが必要になります。「Join」に関しては、2014年から慈恵の皆さんと保険適用を目指すところから一緒にやっています。

2014年11月に法律改正で薬機法になって「医療機器プログラム」のカテゴリができたわけですが、すぐ医療機器製造販売業の申請を行い半年ぐらいで業態認可を受けて、そこからまた本当に3ヵ月ぐらいで薬事申請してすぐ認可が取れました。で、またすぐ2015年9月に保険適用申請していました。本当に向こう見ずというか、乱暴なことをやってたなと今思えば本当にそう思います(笑)。

申請の要件である2つの証明、臨床上と医療経済上の効果証明については、慈恵のほうで2015年初めに病棟に大量にiPhoneを導入したこともあり、そちらで検証に取り組んでいただきました。Joinを使って医用画像を遠隔で確認してもらうようにし、まずJoinを使っても一切誤診がなかったこと(3642症例のうちゼロ)、脳梗塞で搬送されてきた救急患者1人当たり、入院日数が1.6日減ったことを確認できました。これは臨床上の効果ですが、さらに医療経済上の効果として、患者1人あたりの総医療費が6万円ほど下がったことも確認できました。この結果をもって保険適用申請したわけです。

エビデンスをしっかり出したので、2015年12月には中医協※4でこれを認めるかどうかピックアップしてもらえました※5。ただ切り口としては、単にプログラムとして認めてくれということではなかったです。脳梗塞の治療の質を上げる可能性を示すだけではなく、医師の働き方改善の観点からも効果があるというアピールをしそれを厚労省にもご理解いただき、事務局資料にその旨を載せていただいてました。

Photo2

具体的にはこの時、並行して、脳卒中の患者さんを迅速に治療できる「脳卒中ケアユニット」をもっと普及させるために施設要件を緩和しようという動きがあったので、そちらに寄与できますというアピールをしました。当時、脳卒中ケアユニットの施設要件を満たすには、経験5年以上の専門医が24時間1名以上常駐しなければいけなかったのですが、JoinのようなICTツールを活用すれば、病棟内にいなくても読影ができますので常駐する必要がなくなるわけです。したがって施設要件が緩和できて、脳卒中ユニットを全国にもっと普及でき、ひいては救われる命が増えるのではないか?ということですね。

当日の審議では趣旨をおおむねご理解いただけ、翌2016年1月の中医協総会で正式に承認いただきました※6。Join自体の保険適用区分については「C2(新機能・新技術)」※7として申請し認められました。
診療報酬的には、結局、2016年4月の診療報酬改定で「脳卒中ケアユニット入院医療管理料(1日につき5804点)」と「画像診断管理加算(180点または70点)」の施設基準要件がさきほど言ったように緩和されて、5年以上の経験を持つ専門医に常時連絡可能で「診療上必要な情報を直ちに送受信できる体制」を組めば、常駐するのは経験3年以上の医師でよいことになったのですが、その「診療上必要な情報を直ちに送受信できる体制」を実現するツールとして認められ、Joinを使用した場合でも、これらの加算を算定できるようになりました。

振り返ってみれば、なにもないところから医療機器製造販売業免許を取得して、薬事認可を得て、保険適用まで、おそらく日本最短でやり遂げたんじゃないかと。普通は5年くらいかかるものだと思うのですが、非常に短期間で走りきれたかなと思っています。

日本最短でできたのは、こっちは何も分からず手探りでやっていたのが、意外に何の先入観もなくとりあえずいろいろ手続きしたから早く終わった、という観点もあれば、薬機法になって「医療機器プログラム」というカテゴリができてから第1号だったので、行政側も面白いと思っていろいろ協力してくれた、という経緯もあると思います。とは言いつつ、当時は相談に行くたびにエビデンスやデータが足りないとか、申請書の書きぶりなどで毎回怒られていましたが‥いい経験したなと思います。

巨大企業でロビー活動担当や薬事担当、研究者担当など、組織として攻めるのであれば別のやり方なのでしょうが、弊社のようなベンチャー企業では無理です。その意味で、理解ある高尾先生のような臨床パートナーと二人三脚で「魂かけて走り回れた」のは、本当によかったとしみじみ思いますね。先生方みなさん非常に前向きだったのですが、特に高尾先生はライフワークじゃないかっていうくらい、本当に尽力してくださった。

マッチングって重要だと思いますよ。当時、私自身は医療分野について今に輪をかけて素人だったから分かっていませんでしたが、非常にいい組み合わせになったと思います。そういう、一緒に走れる人と組んだ方が俄然勝率が高いと思います。

もちろん慈恵医大とはそれで終わりではなく、その後もずっと研究開発を続けていますし、当初は脳外の中のいちプロジェクトという形だったのですが、今は研究部ということで講座から格上げになりましたので、いろんな意味で取り組みが認められたのかなと。

※4 中医協
厚生労働省の諮問機関である「中央社会保険医療協議会」の略。日本の健康保険制度や診療報酬の改定などについて審議する会議体で、さまざまな治療法(治療技術)、医療材料、医療機器などについて保険適用するかを取り決める権限を持つ。

※5 [参考資料]中央社会保険医療協議会 総会(第319回)
議事録 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000114582.html
資料(個別事項(その7:勤務医等の負担軽減)について)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000106752.pdf

※6 [参考資料]中央社会保険医療協議会 総会(第325回)
議事録 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000123349.html
資料(医療機器の保険適用について)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000110416.pdf

※7 保険医療材料の評価区分
厚生労働省では保険医療材料の区分について、以下のように定めている。
「A1(いずれかの診療報酬項目において包括的に評価されているもの)」=縫合糸、静脈採血の注射針など
「A2(特定包括:特定の診療報酬項目において包括的に評価されているもの)」=眼内レンズと水晶体再建術、超音波検査装置と超音波検査
「B(個別評価:材料価格が機能別分類に従って設定され、技術料とは別に評価されているもの)」=PTCAカテーテル、冠動脈ステント、ペースメーカー
「C1(新機能:新たな機能区分が必要で、それを用いる技術は既に評価(医科点数表にある)されているもの)」=特殊加工の施してある人工関節
「C2(新機能・新技術:新たな機能区分が必要で、それを用いる技術が評価されていないもの)」=カプセル内視鏡

次のチャレンジは、オンライン診療の「質の向上」

慈恵医大とはオンライン診療の強化に関する新しい研究を始めています。例えば、今のオンライン診療では患者さんのバイタルなど医療情報を持ってないところから診療するわけです。その意味で、電話診療との差別化がまだなかなか図れていない。それを様々なIoTのセンサーから、具体的に言えば心電図やパルスオキシメーターなどから得られる値、また電子カルテや医用画像のデータなど、様々なデータがきちんとオンライン診療に使える状態にするということです。薬事の対応と、そのほかまずは通常の対面診療と比較して、そうした診療が非劣性であることの証明が必要なので、そのあたりを慈恵医大とはやっていこうと思っています。

これにあたっては、単に「○○の値が取り込めるようになりました」といったレベルで出すのではなく、臨床上プラスであると証明することを視野に入れ研究していきたい。その過程の中で、きちんと「オンライン診療に向いている症例、病態」を見出せればと思っています。

例えば、半年に1回行われる脳卒中患者さんの術後フォローアップはMRIによる診断が必要なので、そういう意味ではオンライン診療には適さない。ですが、神経精神疾患系やアレルギー疾患などは、オンライン上で分かるものもあるし、現状では無理ですが、プラスして血圧など分かればオンラインで十分に診療できる、というのもある。つまり疾患やそのときの病態によって、オンライン診療に適しているケースと適さないケースがそれぞれ個別に存在するのです。これには初診もいけるとか、再診以降でないとダメというのも含まれます。

Photo3

現在のオンライン診療に対する評価は、いまコロナ禍対応で要件緩和されたのもあって前向きなものも多くなりましたが、社会制度の話になるとどうしても先にリスクを見てしまう傾向が強い。ただ、それに対し「全方位的にいい」という話をするのは少し違うかなと思っています。

その方向の議論では、リスクに対するきちんとした評価ができないので、総じて本来ならプラスの話が「リスクがあるから全部ダメ」という評価になってしまう。そうではなく、大変かもしれませんがオンライン診療の個別の適応例をきちんと評価し、いけそうなものを限定的でもいいのできちんと診療報酬を付けて押し出せばいいのになと。

オンライン診療を適応できるケースはおそらく多種多様にあるでしょうし、それだけでなく「これについてはオンライン診療にした方がいい」という発見も出てくると思います。きちんとそうしたエビデンスを積み上げていきたいと思っています。

それから、あとはAIの組み込みについても研究したいなと。いまのJoinの使用実績は循環器領域、特に心疾患、脳外科が中心ですが、臨床的には周辺の疾患の診療にも役立つものでありたいと考えています。例えば脳卒中になった後に、認知症やてんかんなど他の神経疾患を併発する症例や、心臓以外の循環器での血栓症例など、他の診療領域で使えるような診断補助のAIを組み込めたらと考えています。

世界を見渡せば有能なAIは数多くある状況ですが、もちろん日本でそのまま活用するわけにはいきません。日本の臨床で使えるのか、当然定められたステップを経て認められる必要があるので、そのあたりを研究部で一緒にやろうと思っています。

【概要】
株式会社アルム(https://www.allm.net/
Join(https://www.allm.net/join/

医療者間コミュニケーションアプリ「Join」は、慈恵医大の臨床ニーズから生まれた日本初の公的医療保険適用のアプリ。医用画像を病棟内でなくとも安全に扱える機能が評価され、現在では南米、欧州などでも医療機器承認を獲得し、世界の医療現場に浸透しつつある。

更新日:2021/09/05

Join(株式会社アルム)

医療関係者間コミュニケーションアプリ

記事を読む

beacapp(株式会社ビーキャップ)

ヒト、モノの場所をリアルタイムに見える化

記事を読む

CareRings Contact(アイホン株式会社)

医療介護従事者をつなぐアドレス帳

記事を読む