デジタルヘルス解説集 東京慈恵会医科大学 先端技術情報研究部

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株式会社ビーキャップ 代表取締役社長 岡村 正太 氏

ビーコンが病院で使えるという発想は持っていなかった

慈恵医大との協働のきっかけは、高尾先生からの連絡でした。2015年の東京モーターショーで当社(当時の社名はジェナ)は、会場の東京ビッグサイトの中でビーコンを使った国内初めての屋内ナビゲーションとヒートマップによる混雑状況の可視化を実施させていただいてまして、その際の動画をウェブサイトで公開したんですが、高尾先生がそれをご覧いただいたようでご自分からアプローチしてくださいました。慈恵医大のほうもiPhoneを導入したばかりの頃で、今後どう活用するかのロードマップの中に院内のナビゲーションが入っていて、具体的なイメージを聞いてみたいということでした。私の方でご説明し、さっそく院内にビーコンを配置しようとなりました。2016年頃ですね。

当時、ビーコンを活用したソリューションについては、屋内ナビゲーションも含め具体的な事例づくりはこれからでした。病院で使うというのは当時まったく発想していなかったので、そういう意味で先生の方からお話をくださったというのは大変ありがたいことでした。

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その後の取り組みも非常にやりやすかったですね。現場が分かっている医療者の方だから、課題をどうしたら解決できるか具体的にイメージしてくれる。最初のお話のとき、知っていただいたきっかけの動画はオフィス内を例にしたものなんですが、先生はすぐに院内で使った場合をイメージしてくださっていました。なかなか事業者は現場に入って色々見られないですから、分かっている人が中心になってドライブしてくれると違いますよね。

関係者に導入を理解していただくときも、事業者だけが説明すると医療現場にとっては一面的な話になってしまいがちなんですが、高尾先生のような方が前向きに引っ張ってくれると、具体的にこれを導入するとこれだけいいことがあるんだと、主体的に現場目線で言ってくださるので、価値観を共有しやすいんですよね。

特に慈恵医大の場合はiPhoneを3000台以上導入し、今後これを活用していこうという「幹」の部分がちゃんとできていたのかなと感じています。理事長、院長含めた協力体制がありましたし、その中でさらに一生懸命取り組まれる先生方がいて、そしてまわりが協力していくという流れができていたのではないでしょうか。

在院時間を自動で計測するソリューションが稼働中

弊社はまず最初の事例として、ビーコンを設置し、一部の診療科の患者さんに対してアプリを通じ院内ナビゲーションするソリューションを作りまして、当時の総務副大臣などに見てもらいました。ここではまずは体験してもらい、現場で使えるという感覚を持ってもらうことができました。

その後2018年に東京慈恵会医科大学附属病院(本院)の新しい外来棟が建設されるにあたって、医療従事者の勤務状態、具体的には医師の「在院時間」を把握するソリューションとして導入していただくことになり、私たちが工事中にビーコンを貼ったりして稼働させ、現在も運用しています。背景には働き方改革関連法案がありまして、2024年には医療従事者に対する残業時間の規制も始まることから、信頼できる勤務時間データが求められていることがあります。

長年、医師には応召義務があるので結局24時間診療できるようにしなくてはならず、勤務時間に対する認識はあってないようなものでした。もちろんタイムカードの打刻時間はありますが、そのような事情がありますから実態を反映しているとはとてもいえないわけです。法規制が目前に迫る中、きちんと在院時間を計測できるツールは他にありませんので、非常にニーズが高いと感じています。

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昨年までは新病棟の一部の診療科で先行的にデータをとって、いわゆるキャリブレーションを行なっていました。各診療科の出入口にビーコンを設置しているのですが、検知精度については建物からの影響が出ますので、それに合わせてデータの扱いを調整するというステップです。なぜ必要なのかというと、ビーコンからの電波は建物ですから壁などの遮蔽物によって減衰するわけです。その減衰のあり方によって、データをどう扱うのかシステムとして調整しなければいけないということなんですね。

このステップは精度を上げるために必ず必要ですが、病院においてはそんなに建物の状況は変わりませんので比較的調整しやすく、完了できれば精度についてはより信頼できるものになります。

慈恵医大については昨年までにこの作業を終え、現場からもいい精度が得られていると評価いただきましたので、今年4月から正式に運用を始めたところです。なお、設置したのはのべ150個で、基本的には病棟に入ったか、その病棟にいるか、管理棟へ移動したか、退出したか、といった在院時間の把握に必要な精度にとどめてソリューションを組み上げています。ニーズによってはビーコンの設置数を増やして、より精度を上げることももちろん可能です。

データによる「見える化」で分かることは多い、だがそれは「結論」ではない

位置情報で、さまざまことが「見える化」でき、便利になることは他にも多くあると思っています。例えば病院内なら、その時、必要な医療資材がどこにあるのか瞬時に分かれば探すことはなくなり生産性が上がります。同時に、医療機器の稼働状況が分かってくるのでメンテナンスをした方がいいかもとか、ずっと稼働しているからもしかしたら機器数が足りないのかもといった、管理の精度を上げる指標にもなります。

別の側面からいえば、火災時などの非常時に医療従事者がどこにいるのか把握できれば効率的な避難誘導ができますし、位置情報に加えて滞在時間も掛け合わせれば、新型コロナ対策として濃厚接触者の判定にも活用できます。
さらに、その手法を応用すればコミュニケーションの頻度も計測ができます。医療という意味ではちょっと間接的な話になりますが、よいチームはこれくらいの頻度と長さでコミュニケーションを取っているということが、そこから見えてくるかもしれません。

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ただ強調したいのは、データで「見える化」できても、それは結論ではないということです。浮かび上がってくるのはあくまで「問題点」。数値上、通常の値にすれば解決するというわけではなく、そこには必ず原因があり、そこにアプローチしなければ解決、業務改善はできないのです。

具体的に言えば、残業が多い人がいたとして、数字だけみれば「残業減らせ」で終わらせてしまうわけですが、もしかするとそうさせてしまう何かがあるかもしれないわけで、当事者にきちんとコミュニケーションをとって何が原因なのか探っていかないと、業務改善にはならないわけです。人が働く現場ですから、解決していくにはやはり、当事者とのコミュニケーションと、どう解決するかという判断力が必要だということですね。私たちのソリューションは、そうした業務改善のプロセスを「見える化」で後押しさせていただく、という立ち位置だと考えています。

慈恵医大に導入していただいたソリューションは現在運用フェーズに入ったところですが、基本的にデータ精度には評価いただいてまして、来年度に向けそのデータを勤務表に出力・転記する機能拡張の要望をいただくなど、次に向けた取り組みも始まっています。今後も引き続き業務改善の下支えをさせていただきたいと考えています。

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【概要】
・株式会社ビーキャップ(https://www.beacapp.co.jp/
・Beacapp Here Hospital (https://jp.beacapp-here.com/hospital/

2014年のサービス開始以来(創業当時の会社名は「ジェナ」)、国内では早期からビーコンや各種センサを活用した管理ソリューションを提供。慈恵医大には病棟内にビーコンを設置した上で、医療従事者の在院時間を計測するソリューションを提供している。2021年6月、その知見を生かした医療分野向け製品「Beacapp Here Hospital」の提供を開始した。

更新日:2021/09/05

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