デジタルヘルス解説集 東京慈恵会医科大学 先端技術情報研究部

CareRings

アイホン株式会社 国内営業本部 医療市場開発部 村上雄太氏

現場をとことん見て、ゼロから立ち上げた

慈恵医大と取り組みを始めたきっかけは、高尾先生が「iPhoneでナースコールを受けられるシステムがないか」と、弊社の営業に聞いてくださったことが始まりですね。弊社はナースコールをスマートフォンで受けられる仕組みを実現していましたので、まずはそれを入れようということで、高尾先生が全体をオーガナイズしてくださり、弊社もけっこう頑張りまして前例のない大規模導入の事例を作ることができました。

導入が一段落した後、先生の方から「これで終わりでいいの?」という問いかけをいただいたんです。それは「スマートフォンで看護部門と何ができるか、一緒に考えよう」という、いち事業者としてはかなりチャレンジングな高い目線のお誘いでした。

このお誘いには弊社もトップレベルでの決断が必要でした。弊社代表と高尾先生が話をして、私が研究員として講座(当時)に入り、何かのサービスを導入するというかたちではなく、何をするかから考える共同研究が始まりました。

研究の最初は、「そもそも看護師の業務とは何だろう?」ということで、とにかく知ることから始めました。まずナースコールの呼び出し履歴を分析しまして、基本的にナースコールで呼ばれたらすぐ対応しなければならず「座れない」、オフィスワーカーと違い「タスクを計画立てて調整できない」というのがベースとしてあり、さらに日々、目まぐるしく変わる状況に対応しなければならないこと、入退院の対応など、とにかく変化が激しく、物理的にも動き回っているということを学びました。私自身ものべ2日間、看護師の皆さんに密着して仕事の様子をひたすら記録し続けました。

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次に学んだのは、そういう状況の中で課題となっていることは何かということでした。看護師長からは、チーム内で連絡を取り合ったり教えあったりすること、コミュニケーションが困難、という話がありました。具体的には、それぞれが受け持ちの患者さんのところに行ってしまうと、物理的に離れてしまってお互いがどういう状況か分からないしどこにいるかも分からないので、何か聞きたい時やヘルプが欲しい時には探し回ってしまうと。チームで動く看護部門の中で、様々な変化に対応しながら動くためのコミュニケーション基盤がないということが浮き彫りになってきました。これは看護部門内に限らない話で、医師・コメディカルを含めたチーム医療のコミュニケーションになると尚更と感じました。

こうして現場の状況をつぶさに観察することで、すでに皆が使っているナースコール機能を備えたiPhoneを、受信機としてだけではなく、コミュニケーションツールとして活用できれば課題解決しますよねという発想が出て、CareRings Contactのもととなるアプリ「N-Contacts」が生まれたんです。まさに、臨床オリエンテッドなプロダクトなんですよね。

今思えば、こうした経緯自体が非常に稀有なことだと思います。そもそも、ふつう私たちは現場にとっては「業者さん」であって、そこにはどうしても立場の違いが生まれる。その違いが関係性の違いになって、本音で語りあうことなどまずありません。高尾先生が「共同研究しよう」と言ってくれたからこそ、私が研究員として入り、現場と一緒に何かを生み出すための対等なパートナーとして受け止めてもらえ、進められたことなんですよね。

スマートフォンだからこそ「顔の見えるコミュニケーション」が加速する

このような緻密な現場観察から生まれたのが、「CareRings Contact」の前身である「N-Contacts」というアプリです。電話帳のようなシンプルなインターフェイスにこだわり、勤務中の人が誰で、いまどこにいるのかといったことを一瞬で把握できるようになっています。所在場所の検知に関してはビーコンを活用しました。また、病棟に置く共用端末としてのiPhoneなので、勤怠管理も兼ねて、シフトに入り使用を開始する際は必ずログインし、勤務終了時はログアウトしてもらう仕様としました。

このアプリを入れることで、iPhoneがナースコールを受信するだけでなく、病棟内をいつも通り動き回りながらでも、チームでそれぞれの状況を共有したり、助け合ったりできるコミュニケーションツールとして生まれ変わったんです。導入後は、私たちの予想以上に利便性を感じてもらえ、高いログイン率をマークしており、非常に定着しているといえると思います。

その要因は、もちろんこのアプリが臨床ニーズをしっかり捉えて開発されたものであることも大きいですが、スマートフォンを活用するのが前提だったことも多分にあると考えています。というのは、スマートフォンは皆さんプライベートで使っていることが多いので、操作方法でつまずくことが少ないこと、場合によっては教えなくても覚えてもらえるほど、習得までの難易度が低いからです。

実は導入の最初期には看護師の皆さん向けに講習会を開いたのですが、もともと働き方からして、全員を一堂に集めることは不可能なことでした。ですのでその時来てもらえる人たちに教えて、あとはその人たちが仲間に口伝する、というのに期待するほかない状態でしたが、比較的早期に皆が使いこなせる状態になりました。

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それと繰り返しになるかもしれませんが、適時にコミュニケーションでき、その時困っていることをすぐ解決できるという利便性を実感してもらえたのも大きいですね。プロジェクトを始めたころ、看護師長が導入前の現場の懸念としてあげた、経験の少ない若手に対する業務の中でのアドバイスやフォローがしづらいという課題が、このアプリでかなり解決に近づいた。ハイプレッシャーの中患者さんと向き合う若い看護師さんが、先輩が物理的に近くにいなくても、見えていなくても、アプリで連絡すれば話せて相談できる。近くにいるならすぐ行って顔が見られる。それで得られる安心はかなり大きいと思ってもらえたようです。

実は顔写真を入れてもらうことにしているのは、アプリの中ででも「顔が見える」状態にすることに意味があると考えているからです。現実では勤務中それぞれが動き回り、お互いの顔が見えていない。ですがアプリの中では顔が見えて、ログインしていれば「今日はあの人同じシフトなんだな」「今あそこにいるんだな」と安心できる。

これは弊社がインターホンで画像を映し「顔の見えるコミュニケーション」ができるようにしているのと同じなんです。ナースコールが患者さんに対して「ケアしてもらえる安心」を提供するように、CareRings Contactは、物理的に見えていなくても「顔が見える」ようにすることで、看護師、医療従事者に「困ったら助け合える」「ひとりじゃない」という安心を提供するということなんですね。

このことは、看護師さんが目の前のタスクに忙殺される状況から、タスクをこなした上で、さらによりよいケアのため前向きに考える心の余裕を生み出したようです。CareRings Contactを使っている看護師さんから「より情報を共有しあえる掲示板のような機能が欲しい」といった、機能に関する前向きな要望が多く上がってくるようになりました。私も定期的に現場でサポートさせていただいてますが、ある日の現場では、看護師同士で、今のタスクではなく次の予定について話し合っている姿を見ることができました。

慈恵医大の看護部ではケアの質向上のため「患者さんがナースコールを鳴らすような状況にさせない」という視座の高い目標があるのですが、それに向けて自ら前向きに取り組む姿勢が浸透している、このアプリでその後押しができていると実感しましたね。

今後は『電話帳』を超えていく

現在、慈恵医大とのCareRings Contactに関する共同研究契約は終了し普及フェーズに入っていますが、引き続き私は研究員として籍を置かせていただいています。医療現場の役に立つソリューションを、現場に直に接しながらともに考えられる素晴らしさというのを実感していますので、今後も一緒に新しいものを生み出し続けたいですね。

次に考えていることは、端的に言えば「これからは『電話帳』と呼ばせないようにする」ことです。商品名に「Contact」って入ってますけどね(笑)。というのは、現場からの要望で患者さんのバイタル情報が見られるようにしたいとか、勤務中の「特定の人」に対するコンタクトではなく「担当」に対する連絡ができるようにしたいなど、単なる連絡ツールにとどまらない、情報共有ツールとしての期待をされ始めているからです。

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私たちとしては、多職種連携の支援ツールとしても使えるような機能拡張を考えています。例えば、担当する患者さんを中心においた見え方にする、その患者さんを担当する関係者を一覧で見せるようにしてコミュニケーションをより取りやすくするといったことですね。ここまで来ると、確かにもう電話帳ではありません(笑)。ただ私たちは、真に現場に役立つものでないと意味がないと考えていますので、今後もその価値を提供できるよう追求していきたいです。

【概要】
・アイホン株式会社(https://www.aiphone.co.jp/
・CareRings Contact(https://www.aiphone.co.jp/services/inform-communicate/carerings/

ドアホン、インターホンなどを展開する東証一部上場会社「アイホン」は、医療分野ではナースコールを医療介護施設に提供している。慈恵医大との共同研究で生まれた「CareRings Contact」は、看護師の協働を支援する同社初のアプリ単体製品。

更新日:2021/09/05

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